JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA東北学生卒業設計コンクール2025審査結果と応募作品講評

2026年2月27日(金)に行われたJIA東北学生卒業設計コンクール2026の審査結果と講評文を掲載いたします。

日 時:2026年2月27日(金)13:00~17:30
会 場: (応募者・審査員)Zoom (事務局)日本建築家協会東北支部事務局
出席審査員:
蟻塚学(青森地域会)、西方里見(秋田地域会 審査員長)、小川茂樹(岩手地域会)、齋藤和哉(宮城地域会)、本木大介(山形地域会)、齋藤史博(福島地域会)
審査総評:早坂陽(東北支部長)
事務局:櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)、

応募登録10作品
審査方法:ZOOMにて各作品プレゼンテーション 
発表時間8分 + 質疑応答7分 計15分
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最優秀賞 JIA全国卒業設計コンクール2026東北支部推薦作品
日本大学 工学部 建築学科
細川 慶次朗
「靑の驛‐海と陸の結節点に灯る生業の方舟‐」

本計画は、廃線となり未だ手付かずのままとなっている青森駅北側の未利用地において、その歴史性を含めた丁寧な敷地状況の分析から施設機能のプログラムを組み立て、地域性を意識しながら造形に落とし込む計画となっており、よりリアリティを感じさせる計画であったことが好印象であった。
全体的に卒なく課題解決に至る理論的な計画プロセスにて構成されており、バランスの良い完成度の高さにより審査員から多くの票を得る結果となった。
審査の過程では、敷地周辺のウォーターフロント周辺での再整備が進む一方、未だ閑散とした旧市街地に対し、本計画がもたらす、より広域な地域の賑わいや「ふるまいの連鎖」への視点が求められた。また、表現においても、建築の形態のみならず、その場所が使用されることで生まれる賑わいの空気感などが伝わるような表現があると良かった。
(岩手地域会 小川茂樹)

優秀賞 JIA全国卒業設計コンクール2026東北支部推薦作品
宮城大学 事業構想学群 価値創造デザイン学類 生活環境デザインコース
大坊 珠子
「町を葺く-茅葺きがつくる町の未来-」

伝統的な茅葺きを「保存すべき風景」から「現代の循環型建材」へと鮮やかに引き寄せた視点が鋭い。岩手県金ヶ崎町を舞台に、単なる建築の更新に留まらず、町の共同体そのものを「葺き直す」という構想は非常に野心的だ。本作の核心は、茅葺きの工程である「集める・編む・重ねる」という行為を、地域社会を再構築するための建築的作法へと置換した点にある。農と町がせめぎ合う敷地において、視線や動線の制御によって異なる背景を持つ人々を編み込む空間構成は、極めて論理的である。「葺き替え」の周期的なリズムを、町の持続可能性を支えるエンジンへと転換した構想力も評価に値する。茅という脆弱な素材の集積から、強固な地域ネットワークという新しい風景を描き出した提案だ。単なるハードの設計を超え、時間の積層までをもデザインの対象とした姿勢に、建築が持つ社会的な可能性を強く感じる。
(宮城地域会 齋藤和哉)

優秀賞 JIA全国卒業設計コンクール2026東北支部推薦作品
東北芸術工科大学 デザイン工学部 建築・環境デザイン学科
遠山 翔太
「(アート)が建築にスイッチする時」

建築未満のものを仮に「アート」と呼び、それが何かしらの変遷を経て建築にスイッチする、その様を表現するという、見ている側の思考を試されているような、いく通りもの深読みができる興味深い作品。フワフワ、ゆらゆらなどただの状態を指す言葉が添えられた物体が、本人曰く「はたらきを持った瞬間に」建築にスイッチする。しかしながらその”はたらき”自体も各々の主観に任せられており、実際にはアートが建築にスイッチする明確な境界線がないことが重要に思えてくる。
建築基準法上では建築物は柱を有し屋根がかかっているものと定義されるが、我々建築家が日々考えている「広義の建築」には屋根も柱もなかったりする。「アート」が「広義の建築」にスイッチするその境目を探し意識することは、ふだんなんとなく決めてしまっていた建築の境界を広げ、我々の建築に対するリミッターを外してくれるような、そんな期待感を抱かせてくれる。
(青森地域会 蟻塚学)

優秀賞
東北大学 工学部 建築・社会環境工学科
柏﨑 瑛貴
「八戸が家」

度重なる市域内での住み替え経験から、その時々の風景を等価に扱い、その断片を抽出して家の構成要素とする。本案は、そうした独自のプロセスを持つ提案だと捉えました。
一般的な社会課題や分かりやすい象徴を「土地らしさ」として建築に落とし込む手法とは異なり、私体験を幾重にも重ねることで「土地らしさ」を滲み出させるアプローチには、ドキュメンタリー作品のような趣があります。やり方次第では、十分な公共性を獲得できる可能性も感じさせました。
一方で、最終的な空間の魅力が伝わりにくい点や、記憶の断片を組み立てる「ルール」への説明不足には一考の余地があります。良さを活かしつつ、現実的な出来事や具体的な設計要件との擦り合わせを表現に結びつけることで、さらに説得力のある案になったのではないかと思います。
(山形地域会 本木大介)

優秀賞
山形大学 工学部 建築・デザイン学科
山田谷 歩
「塩竈ソルトミュージアム-塩の結晶から編み直す海辺の産業-」

最近の卒業設計は私小説的「自分探し」の隠れテーマが主流のように多いが、他の分野でもできる。せっかく建築を学んでいるのだから建築を建築で考え表現して欲しい。建築は人である共に物である。人と人の接点+社会、人と物の接点が建築である。物は自然である。
塩竈ソルトミュージアムはそうした原点から成り立っている。心理的(人)・物理的(物)な擁壁を建築の一部として開放(接点・関係た)し視覚化した建築である。塩竈の都市の人・海(自然)・産業の組み合わせが概念模型でうまく表現されている。それらは01塩釜に眠る産業と海と02製塩工程を建築化し概念的に03全体構成されている。具体的な作業別空間と機能別空間は04と05空間操作され06五感で広がる体験を見事に方法論化し螺旋状の意味性があるそれぞれの空間変化に豊な楽しみな見応えのある概念建築になっている。
外皮が少なく太陽と風と雨と暑さと寒さなど混成しているのも魅力である。
(秋田地域会 西方里見)

東北工業大学 建築学部 建築学科
月舘 新
「まだ海は生きている。~陸奥湾へ人々を放つ、躍動の拠点と遊歩道の設計~」

青森市港湾エリアはかつては青函連絡船の発着の場として賑わっていたが、現在は人通りのない未利用地となっている。一方でJR青森駅や中心商店街に隣接しており、時代の流れに見捨てられた、可能性に満ちた場所であり、あらためて生業としての漁業をこの場所に定着させることにより賑わいを取り戻そうとする着目点がよい。再び市民の視点が海へ進出することにより、陸奥湾沿岸のネットワーク形成など、過去を取り戻すだけではない新しい広がりを見ることが可能となる。提案されている機能は漁業、観光、カフェ、ホールなど。活用の様子を写したCGパースは美しいが、具体的な図面表現・空間表現が不足していたように感じた。またこの魅力的な敷地を取り上げている一方で、この施設と市中心商店街との距離感を埋められていないことが気にかかった。既存のホーム・レールを活用するなどエリアを結ぶ何かしらの工夫が見られたら提案の熟度がさらに増していたと思う。
(青森地域会 蟻塚学)

東北学院大学 工学部 環境建設工学科
小林 夏渚
「Canal Scape‐貞山運河を繋ぐ五つの線的建築群‐」

かつて船運の基盤として栄えた仙台湾を起点とする貞山運河に着目し、観光資源としての魅力を高め、広域な建築群の構成により新たな人と水辺空間の関係性を生む提案であったが、その着眼点において高評価であった。
計画においても、運河沿いの特徴的な5箇所の計画地を取り上げ、それぞれの地域が持つ歴史的な文脈を読み取り、異なるアクティビティを一連の連続性を持たせたパッケージツアーも視野に入れ、みごとに計画にまとめ上げている。また、護岸の整備への浚渫土の活用など、細やかな配慮が読み取れる。
一方、広域な計画であったためか俯瞰的な計画説明が主体となっており、運河をインフラとして使用することで得られるシークエンス的の魅力や、車移動とは違う水運ならではのゆるやかな時間の流れなどの魅力が活かしきれていない印象があった。また、日常的な利用の観点で地域ごとの価値がどのように高まるか説明があると良かった。
(岩手地域会 小川茂樹)

宮城学院女子大学 生活科学部 生活文化デザイン学科
長谷川 暖
「『みえるまち』―泉中央駅前再生計画の提案―」

この案の肝は、大きな建物を小さな箱に分割して、誰にでも開かれた屋外空間を作り、賑わいを取り戻そうとした点なのだろうと思います。ただ、パースを見たとき、アウトレットモールやテーマパークのような印象を受け、「本当にこれがやりたかったことかな?」と感じました。せっかく建物を分割して作った屋外空間が、グリッドや大屋根といった全体のルールによって、逆に閉ざされてしまったように見えます。
また、建物の形に個性を持たせる提案には疑問を感じました。街の賑わいのためには、建物の「形」そのものよりも、建物と外の空間の関係性や、敷地と周辺の街との繋がりについて、もう少し考える必要があったかもしれません。周辺環境を分析したり、賑わいについて整理したり、下準備にもう少しエネルギーをかけると、案の魅力と説得力が増してくると思います。
(山形地域会 本木大介)

東北工業大学 ライフデザイン学部 生活デザイン学科
小野寺 恵里奈
「ルココッツイ ー湧水が誘う三拍子のまちー」

本計画は名水百選に選ばれた「六郷湧水群」を有する秋田県美里町六郷地区を対象に、水と共に滞在する場として宿泊施設・工房・酒場の三施設を点在させて計画し、その相乗効果で滞在・体験・交流を促し、かつての宿場町の賑わいを取り戻す計画です。
当時の時代背景や、現存する水場を取材して地図に落とし込む作業が丁寧になされている事に好感を持てました。また、点と点が線になって町が賑わいを取り戻す絵や、湧水ポイントを巡るマップも面白いと思いました。
一方で、自然発生的に点が線となる事を期待せず、更に踏み込んで三施設の間の既存の水場を楽しめる遊水地等を計画し、広がりを促す物語を描いても良かったと思います。また、多雪地域では湧水を融雪に利用していた事例も多く、雪深いこの地域の雪と暮らしの関係性やその他の四季の移ろいを取材しデザインに昇華できると、さらに深みが出たと思わせる余地を残した作品だと思います。
(福島地域会 齋藤史博)

仙台高等専門学校 総合工学科Ⅲ類 建築デザインコース
池田 悠介
「皮相」

本作『皮相』は、メディアが流布する情報の「表層」を疑い、主観や経験に左右される精神的な共感ではなく、「物理的な視点の獲得」という極めて硬質なアプローチで情報の真髄に迫ろうとする野心作である。創作された殺人事件を題材に、当事者6人の相関関係を8つの事象へと解読・解体し、それをドームの開放感やスロープによる視線の高低差、構造体の疎密といった建築言語へと精緻に翻訳している点は高く評価できる。特筆すべきは、人間関係の距離感や上下関係という不可視の重力を、参加者が他者の位置から空間をなぞる「追体験の場」として具現化したことだ。建築を単なる機能的容器ではなく、複雑な社会事象を読み解くための「装置」へと昇華させたその設計思想は、現代における空間の可能性を力強く提示している。物語を空間の律動へと定着させたその筆致には、設計者としての強靭な意志が宿っている。
(宮城地域会 齋藤和哉)