JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA全国学生卒業設計コンクール2020 東北支部作品選考会報告

JIA全国学生卒業設計コンクール2020
東北支部作品選考会報告

日   時:2020年3月23日(月)13:00~15:00
会   場:日本建築家協会東北支部事務局、web会議
出席審査員:鈴木弘二(審査員長、東北支部長)、辻一弥(宮城地域会長)、
櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)
Web参加審査員:山本潤児(青森地域会長)、茂木聡(秋田地域会長)、六本木久志(岩手地域会長)
小松正和(山形地域会長)、三瓶一壽(福島地域会長)

応募総数:9点

1.審査方法
・3/19(木)までに応募者より提出されたプレゼンテーションシート(A3判5枚)ならびに設計主旨をまとめたテキストファイルを審査員に事前配信し、作品の読み込みをしてもらった。
・選考会当日14時までに、事務局あてのメールで優秀作と考える3点を挙げてもらった。

2.審査経過
・開票を行い、8作品が票を獲得した。
No.1         4票
No.2         5票
No.3         2票
No.5         1票
No.6         2票
No.7         1票
No.8         4票
No.9         2票

・このうち、獲得票数が多い作品から、支部選出に値するか協議を行った。
・2は、5票と最多得票であった。票を入れた委員を中心に評価のポイントを議論した結果、問題なく選出された。
・1とNo.8は4票で次点得票の作品である。No.1は衝撃的なドローイングなどが高く評価され、選出作品となった。No.8はプレゼンテーションの質の高さに比べて建築的な内容に乏しいなどの意見があったが、議論の末、最終的に選出作品に選ばれた。

3.審査結果
・審査の結果、No.1、No.2、No.8の三作品を支部選考作品として選出することとした。
なお、各作品の評価については、作品ごとの講評を参照されたい。
文責:櫻井一弥(事業委員長)

[作品講評]

No.1東北大学 福岡 咲紀
「上野公園が死んだ日」

今回の審査会はコロナによって、例年のように作者のプレゼン等を聞きながらじっくりと審査をおこなう審査会を開催できず、審査員各々の知見で作品の意図・真意を探り評価しました。その為、十分に審査員一同が理解したかは定かではありませんが、審査員の投票の結果、1位と一票差の2位を獲得したのがこの作品でした。我々世代が衝撃的な感覚を持って読んだAKIRAを現代に引き出し、上野公園の場所性と歴史の積層をステージとして展開させ、さらにオリンピックを控えた現在の社会とAKIRAのストーリーをシンクロさせ、上野の森にミヤコ教の壮大な神殿を備えた複合施設を創造する意欲的な作品でした。それは、今日の混沌(カオス)社会の中で、不安・不平等・脅威など、何が真実で誰に縋り何処に向かうべきなのかといった人間の心理を突き、それらを建築化した優れた作品でした。

(東北支部長 鈴木 弘二)

 

No.2日本大学 海老澤 健
「Drip 渋谷川植物園」

この作品は、審査員の投票で最高点を獲得した作品でした。}
渋谷が平成から令和に渡り、渋谷駅を中心とした大規模な開発がおこなわれ、嘗ての渋谷の姿を見ることはできなくなりましたが、ただ、暗渠で隠されていた渋谷川がその姿を現し、昔の記憶を醸し出す標として復活しました。この作品は、その渋谷川の傍らに、4か所の小さな植物園的な施設を計画するものです。その機能は小さな植物園としての機能ばかりではなく、渋谷川の水の浄化装置として、ゴミ焼却施設の排熱を利用する装置として、さらに都市のオアシスとして計画され、渋谷の街に市民が集う新たな親水空間を提案した建築でした。その構想力と美しい建築を創造するデザイン力は、各審査員から高い評価を獲得しました。

(東北支部長 鈴木 弘二)

No.8秋田工業高等専門学校 伊藤 那央也
「CRUMBLE」

本作品の初見の印象は「どこかの雑誌で見たことのある集合団地」「ドローイングのスキルはなかなかのもの」この2つでした。
「どこかの雑誌で見たことのある集合団地」に関して言うと、効率重視の団地を砕いて再構築し、本作品の様な複合施設に変換することは、多くの設計者がチャレンジしてきたところです。「スケール感」「押し付けではないパブリック空間」が肝となってきます。本作品もそのような目で見てみると、テクニックに目を奪われるのですが、普段人はどこにいるのだろうか?という疑問が生じてきます。提案しているパブリックな空間が「リビング」であり、「寝室」に相当するものが各住戸であるのならば理解できます。ただの箱であった団地を砕いて街にする、、、その設計作業の中に、人の暮らし・多様性があることを感じると、さらに深みのある作品になっていくのではと思います。
「ドローイングのスキルはなかなかのもの」について。テクニックはあるし、きっとすごいスピードで書けるのだろうなぁなどと思ってしまいます。このスキルは評価できると私は思います。
「どう描くか」「どうしたら綺麗に見せられるか」これもスキル、「何をつくるか」「ゼロから考えだす」これもスキル。二つのスキルを磨いていくことを期待します。伊藤君のこれからを応援しています。

(青森地域会長 山本 潤児)

No.3宮城大学 浅倉 雪乃
「都市を開拓する-都市空間における新たなストリート空間の提案-」

本作品は、定禅寺通りという仙台の美しい街並みに対する提案です。
私が興味を惹かれるのは、高低差を持つ地盤を挿入し街の質・空間構成を大きく変えようとする発想と、「地盤」を使った試みです。「地盤」の形と高さにより創造された空間が、多様なアクティビティを「誘発」することを提起しています。作品のドローイング、模型によりその思いが伝わってきました。
「車」「街路樹」「歩道」この3つを融合させることは結構難しいことです。道路の中央分離帯はいくら植栽しても「眺めるだけの存在」であり、歩道側(言い換えると『人の側』)を引き込むことは出来ているようで出来ていません。札幌の大通公園が魅力的なのは、中央分離帯がアクティビティを行うのに十分な広さを有しているからだと思います。本作品は「地盤」によりそれを実現しようとしていると私は捉えました。
定禅寺通りの良さをいかに活かすか?車をどう扱うか?ケヤキ並木をどのように生かしていくか? をもう少し掘り下げてほしい気もしました。
『発想を形にする』『ゼロから形をつくる』浅倉さんのこれからを応援しています。

(青森地域会長 山本 潤児)

 

No.4山形大学 高橋 和奏
「縁の結び目」

まず全体として、この作品にかける思い、考え方が伝わりにくいという印象でありました。結果そのあたりが選定されなかった一番の理由かもしれません。
まちの歴史、現況、課題等調査を丁寧に行い、そこから導き出されたコンセプトは非常にわかりやすく納得しています。ただ、それを建築に落とし込んでいく中で、計画、プレゼン含め、もう少し形やプランニングの説得力、建築ができる事での内・外での人の動き、縁側での楽しさ、縁側同士のつなぎ方等が見えてくると良かったと思います。今回はプレゼンができない歯がゆさがあったかと思いますが、今後の健闘を期待しています。

(山形地域会長 小松 正和)

 

No.5東北芸術工科大学 大宮 拓真
「御殿堰再生計画」

この度は皆様にとって大変厳しい情勢にも関わらず、JIA全国学生卒業設計コンクール東北支部作品選考会にエントリー下さいましたことに対して敬意を表します。提出いただきました「御殿堰再生計画」ですが、着眼点として山形市市街地の現状問題を確り捉えていることは大変評価できます。また、この水路は山形市でも七日町御殿堰や親水公園などのように街並み再生の一環としてポイント的な仕掛けをされているようです。今回の計画提案においても、アプローチとしてはこの延長の域を抜け出していないように感じました。あと一歩掘り下げて解析し、歴史的な流域住民との関わり方と、そこから導き出されるこれからの御殿堰界隈の魅力を示せると良かったと思います。

(福島地域会長 三瓶 一壽)

 

No.6東北学院大学 高城 那菜
「記憶の種火」

建築設計は、記憶の結果だと考えます。記憶は、人それぞれ、時間の経過とともに変化するあいまいなもの、時代を表しているとも考えます。
本作品は、「記憶の種火」として、地域住民が記憶する個を収集し、設計の手掛かりとした手法は、建築設計の原点であり、好感が持てるものになっています。惜しいのは、時間軸の視点が弱かったこと。もっと深みのある作品になれたと考えます。本手法は、街を再生する時、現実に行われており、本作品でも果敢なチャレンジがなされていることは、大いに評価できます。残念ながら、「東北支部選考作品」に一歩及びませんでしたが、建築に昇華させた時、市民が、観光客がどのような目で、建築群を見ることになるだろうか、いろいろ考えさせられました。

(秋田地域会長 茂木 聡)

No.7仙台高等専門学校 羽田 知樹
「ははその大工」

卒業設計コンクールでは1.歴史、社会、環境等の問題意識。2.調査。3.問題意識への提案(理念、哲学)4.計画立案への情熱。5.プレゼンテーション能力。などが問われます。「ははその大工」は気仙大工の歴史的意味と三陸における震災復興、山・海・人・地域・生態系への着眼点といった意味で好感がもてるテーマです。計画立案においては軸線となる「橋」が橋のまま平面に留まっていて残念です。「せがい造り」といった出桁の構造によって立体的で多層の空間構成・橋の構造体を利用した水と緑の提案。渡り鳥や昆虫などの観察施設、W Cや集会施設やイベントの提案など。山と海、人間の営み、生態系へのアプローチとダイアグラムの取り組みを追求しもう一歩踏み込んだ提案が欲しかったと思いました。

(岩手地域会長 六本木 久志)

No.9東北工業大学 髙橋 響
「まちの編み方」

経済的な視点のみでの都市の再構築は、個性を失い、均質化することに警鐘を鳴らし、日本の主要都市の中心市街地で抱えている老朽化ビル群の建て替えや、木密地域の区画整理による再開発等の考え方の一つとして興味がある案でした。
具体的な敷地のイメージや子供、老人、身障者等に対しての配慮が今回の案に組み込まれていると、もっと良かったのではないかと思います。
いずれにしても、日本人のDNAに染み込んでいる路地裏や界隈等のヒューマンスケールの演出を縦の方向に編み込んだことが「都市のおもしろさ」に繋がるという考え方に共感しました。

(宮城地域会長 辻 一弥)