JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA東北学生卒業設計コンクール2021審査講評

日 時:2021 年3月23 日(火)13:30~17:10
会 場:(審査員)日本建築家協会東北支部事務局 (応募者)Zoom
出席審査員:進藤勝人(審査員長、東北支部長)、堀内将人(青森地域会)、茂木聡(秋田地域会)
六本木久志(岩手地域会)、大平宏行(宮城地域会)、小松正和(山形地域会)、
三瓶一壽(福島地域会)
事 務 局:櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)
応募総数:11 点
1.審査方法
・ 応募者より提出されたプレゼンテーションシートならびに設計主旨をまとめたテキストファイルを
審査員に事前配信し、作品の読み込みをしてもらった。
・ 応募者に、Zoom 上で画面共有をして作品の概要を説明してもらい、それに対して質疑応答を行っ
た。発表時間は5分、質疑時間は10 分の計15 分が一人あたりの持ち時間であった。
・ 全ての発表終了後、審査員一人あたり2票を持ち票として投票を行った。
2.審査経過
・ 開票を行い、以下の5作品が票を獲得した。
No.1 5票
No.3 2票
No.5 3票
No.7 3票
No.11 1 票
3.審査結果
・ 審査の結果、得票通りNo.1 を最優秀作品、No.5 とNo.7 を優秀作品とし、これら三作品を支部選
考作品として全国コンクールに選出することとした。
なお、各作品の評価については、作品ごとの講評を参照されたい。
文責:櫻井一弥(事業委員長)

[総評]
今年の卒業設計コンクールは、コロナ感染症拡大の影響を受け、初めてのリモ-ト審査となりました。
審査委員はJIA東北支部に集まり、ZOOMでの審査が行われました。
今までの模型やパネルを使った集合形式の審査に比べ、作品の理解やディスカッションは難がありましたが、学生の皆さんの熱意や努力は、大いに伝わってきました。
今年は地域を読み解いた、地域活性化の作品や、建築の新しい可能性を導き出す作品、自然との共生を課題とした、作品が集まりました。どの作品も地域の歴史や風土を良く読み解き、又、調査研究に十分時間をかけた、見ごたえのある作品であったと思います。
1位の阿部杏華さんの作品は、木の衣替えという発想が面白く、スト-リ-性が良く、造形美のある優れた作品であったと思います。
2位の小山田陽太さんの作品は、風景のフレ-ミングという、設計手法を用いた作品で良く研究された、完成度の高い作品と言えます。
同じく2位の伊山琳さんの作品は、その土地の歴史を切り口に、追悼と平和への祈りの空間の施設で、人により様々な受け取り方や、感情が交差する作品といえます。
本選においても、自身の考えを丁寧に説明し、理解を得る努力をして欲しいと思います。
全国大会も、リモ-ト審査になる可能性があります。模型の投影など工夫を凝らし、入賞を目指して、頂ければと思います。
(日本建築家協会東北支部長 進藤 勝人)

[作品講評]
最優秀賞

No.1 日本大学 阿部杏華「木ごろも街道 -流通がつくる街並み-」


福島県石川郡古殿町を計画地とし、地域産業である林業、製材業を地域の建築風景として取り込むように通りに添って施設を計画し、地域の人々や訪問者への林業の再認識を試みる作品である。
製材所に並ぶ乾燥木材やストックされた角材を計画地の風景デザインとして取り込むアイデアは、地域が自然に吸収し対応できる合理的な良案といえる。
各施設計画においても、製材、乾燥、保存の過程を建築の一部として取り入れる計画はその意図が明解であり、構造材が曲面に配された造形デザインも巧みで、その木質の柔らかな表現はとても好感がもてる。
(青森地域会 堀内 将人)

 

優秀賞
No.5 東北工業大学 小山田陽太「漂う水平線-遮蔽縁によるシークエンスの設計手法および設計提案-」


まずは全国コンクールに選出され、おめでとうございます。
遮蔽縁を分析し、4つの空間的要素を利用しながら、七ヶ浜の美しい自然の見せ方は非常によく練られ、空間そのものを楽しみ、時間や季節の移り変わりも楽しながらの美術館の構成は高く評価されました。
しかしながら、やはり建築は、外からどう見えるのかも大切なポイントです。豊かな自然を取り込むことは、内だけでなく外にも必要です。敷地に対してのボリューム感が大きく感じられ、周辺環境との調和に疑問が残りました。オンラインでのプレゼンテーションは伝わりにくいこともあるかもしれませんが、全国コンクールでの健闘を期待しています。
(山形地域会 小松 正和)

 

優秀賞
No.7 東北大学 伊山琳「都市の祝祭 – 厄災と平和への献花施設-」

東京オリンピック2020が中止されたとする仮定の空虚な国立競技場周辺に計画した、都市の厄災や戦争など史実を建築で表現する献花施設である。
明治神宮外苑の歴史に関わる場所に史実に分類して線を引き、その線を参考に出来た空間は、自由でいて意味深く組み立てられており、各史実のそれぞれの展示と献花場の構成、距離感、展望や追悼の機能が巧みに計画されている。
施設外周の外構表現がなされていないが、史実で引かれたディレクションラインによるランドスケープをデザインし表現していれば、さらに意図が明解な良案であったと感じる。
(青森地域会 堀内 将人)

 

[出展作品]

No..2 秋田県立大学 鈴木悠「建築の更新-質量性と透明性の操作による空間再考-」

建築空間の更新といった空間の抽象性をテーマにチャレンジしたものと感じました。第一印象としては人の気配の無い家具も無い真っ白な新築住宅の一昔前の建築雑誌を思い浮かべました。空家となった農家住宅とはいえ生活者の息遣いや刻まれた空間の特性はあるのではないか?風の香りや光の移り変わり等、既存建築物としての文脈を持っているのではないか?その空間要素と新しい空間素材としての透明性との対話に焦点を当てれば面白くなるのではないか?と思いました。空間創造には自分と他者、地域や社会との関係性の中で共有するものと思っています。人の営みと空間のダイナミズムをプレゼンテーションできればと思いました。
(岩手地域会 六本木 久志)

 

No.3 東北工業大学 前村 悠斗「沢代山ワーク・バイオ・ミュージアム」

採石場跡地に産業を育成し、緑化を推進、荒れ果てた土地をよみがえらせるワーク・バイオ・ミュージアム構想は、提案者の地域に対する愛着心が感じられ、素晴らしい視点だと感じました。土地の歴史調査も充分で、頑張った作品だと思います。写真で見る限り、立派な模型も作られたようです。惜しいのは、建築的提案が弱かったこと。
プレゼンテーションで模型を含めた説明があればわかりやすかったと思います。コンクールという性格上、他者との比較となります。特に今回はWEBでの審査でしたので、その配慮があれば、上位になった内容だと思います。
(秋田地域会 茂木 聡)

 

No.4 東北芸術工科大学 大室新「情景乃集 -歌集「木のかをり」から読み解く心象風景の空間化-」

作者の祖父が生業としての林業を通して編んだ短歌から自然、人の感性を導き、故郷の林業振興を目的とした施設である。思考のロジックの構成は解りやすく8つの空間概念
・語句情景から24の情景図式・形態図式と「虚」と[実]に2分して構成した木とのマッチングは適切で自然界に調和する施設としては理解できたが、場所の選定、フラットな屋上の木造の寿命想定については、明確な説明が得られなかった。第三者に追体験させるには、身内感が強いテーマからなのか、林業が主となり、果樹・ワイン等地場産業との連携も盛り込んでも良かったと思えた。同じく、町から彼岸に位置した場所としたのは祖父が山に分け入りこれから自然と対峙する思いを感じた理由と勝手に深読みさせて頂いた。
(宮城地域会 大平 宏行)

 

No.6 宮城学院女子大学 阿部優風「都市の残部に築く建築群」

都市部における「ヘタ地」をテーマに扱いづらい土地に着目し、ヒューマンな居場所を創るという試みは大変評価できるところです。ただ、その建築が「図書館」であるとしたところには、施設の目的性、社会における施設の一般的な解釈からすると、難しい部分があるように感じました。図書館の中でも施設使用分野をもっと絞ったものにした方が、効率を求めすぎる都市空間の中から隠れ家的空間と時間とを満喫できる提案となったのではないかと思いました。この提案はもしかして当該街区から「ペット・アーキテクチャー」的概念の抽出のみがテーマだったのでしょうか。
(福島地域会 三瓶 一壽)

No.8 東北学院大学 須藤晴樹「本に集う-石巻市図書館移転計画-」

本計画では3Dを駆使したプレゼンテーションと吊り構造のメガストラクチャーの巧さに感心させられました。天空からの自然光を取り入れた空間構成で外部空間の中に散りばめられた図書・情報センターとしての機能を期待されました。メガストラクチャーに目を奪われがちで又、回廊型の利用者動線の面白さに囚われ過ぎ開かれた図書館の明確なコンセプトが伝わりにくいと思いました。吊り構造のダイナミックさよりも、自然や外部空間を取り込んだ都市の中の森の図書館であったり、透明で開かれた人々との出会いの場、街を共有化する情報センターとしてのプレゼンテーションが欲しかったのでは?と思いました。
(岩手地域会 六本木 久志)

 

No.9 山形大学 大舘洋音「モバイルハウス×モバイル工務店-ASAHI VILLAGERS号-」

見事な提案でした。審査員一同、審査をどう対応すべきか悩みました。建築を移動式システムで造って歩くという考え方は、秀逸です。審査員に対する挑戦と受け止めました。
プレゼンテーションも、WEB方式だからできる内容、楽しく拝見しました。
提案者の根底にある建築像は、造るという行為だと理解しました。ヨーロッパで、船を設計事務所にし、仕事があれば施主の身近な港に行くという建築家が昔いたことを、久々に思い出しました。コンクールの規則は、審査員一人2票。これが3票だったら結果は変わったかもしれません。それほど衝撃的提案でした。
(秋田地域会 茂木 聡)

 

No.10 仙台高等専門学校 遠藤天夢「もろびとほろびて-擬自然への止揚-」

この提案ではヘーゲルの弁証法に沿って論理展開しており、なかなか読み応えがありました。そしてその趣旨は理解できます。しかし、各デティールに推敲不足と思われる点がありますね。例えばパネル2・phase4での減築過程や、パネル3・自然と共生する住宅の提案ですが、人間の営みはある意味自然をソフトにコントロールして成立させてきたのだと考えます。里山や杜がそれらに当たり、弱肉強食の原理からなる「真の自然との共生」は成立しない。そこで人間と自然(動植物)の間に「秩序」と言う柔らかなボーダーを築き、棲み分けて営みをしてきたのだと思います。もう少し時間をかけてそのデティールを再度推敲して欲しいと感じました。
(福島地域会 三瓶 一壽)

 

No.11 宮城大学 髙橋璃歩「湯沢とあなたの交点-地域資源によって市民の交わりが連鎖する場を目指して-」

湯沢に対する高橋さんの想い、湯沢のまちを元気にしたいという想いが伝わってくる良い作品です。まちを読み解き、街並みの継承と地場産業を用いながら地元の人が誇れるまちの再生と、市民の居場所づくりは非常に共感できます。
しかしながらその想いを形にしたとき、あまり伝わってこない印象になっています。つまり形にするときの説得力があまり感じられませんでした。まちを読み解いた上での敷地の選定や外観の意匠等、計画するための手段が丁寧に説明されていると良かったと思います。オンラインでのプレゼンテーションでは、なかなか伝わりにくい部分もあったかもしれませんが、今後の活躍を期待しています。
(山形地域会 小松 正和)