JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA東北学生卒業設計コンクール2023講評

2023年2月24日(金)に行われたJIA東北学生卒業設計コンクールの審査結果と講評文を掲載いたします。

日 時:2023年2月24日(金)13:00~17:30
会 場: (応募者・審査員)Zoom (事務局)日本建築家協会東北支部事務局
出席審査員:
福士譲(青森地域会)、六本木久志(岩手地域会)、早坂陽(宮城地域会)、
小松正和(山形地域会)、齋藤 史博(福島地域会)
事務局:櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)

応募登録10作品
審査方法:ZOOMにて各作品プレゼンテーション 
発表時間13分 + 質疑応答7分 計20分
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最優秀賞
日本大学 工学部 建築学科 
阿部 佳穂
作品タイトル:生業を醸す-海と海抜460m-

まずは、最優秀賞及び全国コンクールに選出され、おめでとうございます。
コンセプト、設計内容、全体のデザイン、模型の表現等たいへん素晴らしい卒業設計だと高く評価されました。さらに、阿部さんの南三陸町に対する想いが伝わり、実際こんな施設ができたらまちの人々にとっても、産業にとっても元気が出るのではないかと感じ、是非行ってみたい気持ちになりました。
しかしながら、図面の表現として内外部の繋がりや、内部から外側の見え方等一部わかりにくい、また表現しきれていない部分など工夫すればもっと良い設計になったかと思います。東北の代表として全国コンクールでの健闘を期待しています。
(山形地域会 小松 正和)

優秀賞
東北芸術工科大学 デザイン工学部 建築・環境デザイン学科
吉田 紅葉
作品タイトル:地域に溶ける線状大学 〜揖斐線跡地を対象として〜

プレゼンテーションが紙芝居で、提案の内容に自然と引き込まれた。18.3kmの用途のない廃線跡地と22駅跡地を利用して、その地域の表情に似合った学部を繋げて市民や学生のための大学建築を提案している。多種多様な旧駅周辺に生活する人々の経歴や経験、土地の力からの学びは豊かであると想像できた。電車が走っていた記憶と地域の特色や歴史が継承されていく。18.3kmの場が持つ人・時間・空間を建築で素敵に融合させている事を評価した。ただ、建築デザインを「質素」にとあるが、その街の持つ納まりや匂いのようなモノが表現されると更に良かったと思う。私は廃線秋保電鉄の終着駅に住んでいるが、地方に点在(線)する廃線跡に光があたるかもしれない。
(宮城地域会 早坂 陽)

優秀賞
東北工業大学 ライフデザイン学部 生活デザイン学科
糠塚 凪
作品タイトル:創遊の立体町屋 -名取増田クリエイティブ・ホームズ-

空洞化が進む駅前商店街の活性化を目指した集合住宅の提案である。丁寧に現状調査した結果をもとに設計された職住複合の中層建築は、商店街や町屋のボキャブラリーを用いながら立体的に表現している。都市における回遊性と面的展開を狙った平面計画が好印象だが、一方で断面操作における連続性や透過性、多様性などの工夫がもう少し欲しかったと個人的には感じられた。
近年では、プレイスメイキングや実証実験活動などの街づくり活動が盛んであるが、道を挟んで向かい合った2.5階の広場や街路、そして通り抜けの小径など、模型表現も含め空間操作による建築的可能性を目指した挑戦はとても評価できる秀作の一つではないかと思う。
(青森地域会 福士 譲)

東北工業大学 工学部 建築学科
須藤 寛天
作品タイトル:creation guerrilla

とてもきれいな表現の提案。仙台市の東北大学農学部跡地を100,000㎡という広大な街区をすべてデザインした事が卒業設計でしか提案できない規模であり嬉しくなった。一枚板の軽やかな人工地盤が敷地全体を覆い132のブォリューム(大きさの違う箱)が配置され、さらにその板には緻密に計画された開口が開けられている。内部や、外部の様々な表情の中で人々が自由に制作・展示・学習を行う。時には宿泊も可能だ。それぞれのデザインやアトリエ・ミュージアムなどの展開がとても巧みで好ましく評価した。ただ、132という数に別の意味があれば説得力が増したと思う。
農学部の記憶として屋外スペースや屋上緑化にヤギなど飼っても面白かったかなと感じた。
(宮城地域会 早坂 陽)

秋田県立大学 システム科学技術学部 建築環境システム学科
佐藤 海翔
作品タイトル:結節点 ーローカル線駅舎の可能性ー

衰退し無人駅となり解体も危惧される東大館駅のリノベーションですが、単なる目先の機能の置き換えは、それを失えばまた同じ問題を繰り返してしまうという問題意識から、更新し続けられる「強いカラ」として既存駅舎を覆うように通路が積層し、偶発的な空間の発見や人との出会いの空間の提案です。
建物は必要性により生まれ、それを失えば存在の意味を失う。建物の保存は常に困難が伴う。設計者の問題意識には非常に共感する物がある。
将来への展望への余地を残す為にあえて市民が交差する回廊の提案に留めていると思われるが、市民がこの場所に積極的に集まってくる動機づくりや、偶発的な出会いからこの駅の更新へと昇華させる場の提案や長期的な展望の物語があってもよかったと思う。
雪が不規則な屋根から落ち、その一瞬しかない落ち方や積り方を眺められる空間はとても面白そうでした。
(福島地域会 齋藤 史博)

仙台高等専門学校 建築デザインコース
千葉 圭吾
作品タイトル:ユートピア解体-職住一体による花卉産業の振興-

現存する「ハナトピア岩沼」の問題点と花卉産業を調査の上、再構築する提案です。現況施設の広大すぎる駐車場のあり方、未利用の施設、花卉産業の問題点などを良く調査し分析されています。計画案では(1)既存施設の管理棟と産直物販展示室を温室として再利用。(2)中央花壇の広場を利用し、職住一体の土地利用で温室に取り囲まれた配置でグリーンルーフの4軒の住宅。農地と人工物が融合されていて好感を持ちましたが、全体的にはそれぞれの施設が平面的で散漫な印象です。もう一歩踏み込んで、農家の軒先の納屋や下屋の下での農作業空間と散らばっている温室の有機的な繋がり、屋上のグリーンルーフの活用と露地栽培農地との一体的な空間、の提案が欲しいと思いました。
(岩手地域会 六本木 久志)

宮城大学 事業構想学群 価値創造デザイン学類
高橋 俊成
作品タイトル:U-ark 閖上

卒業研究から津波避難施設の視認性の影響等を導き出し、それを設計に活かしたスロープの配置、さらにコミュニティ施設としての日常的な使われ方に対する内部構成や透明性のある外観等建築的な解決は高く評価します。また、“U-ark”という名称の付け方にも共感を覚えました。
 しかしながら、全体の印象としてコンパクトにまとまりすぎたところや、敷地内広場との繋がりや、災害時だけでなく、普段のこの施設使い方にもう少し工夫や高橋さんの想いが入ってきても良かったと思います。今後の活躍を期待しています。
(山形地域会 小松 正和)

東北大学 工学部 建築・社会環境工学科
金井 凌雅
作品タイトル:祖母の死の広がり

ドキュメンタリーフィルムのように静かに訴えてくる紙面は、大げさなパースや模型によるプレゼンと一線を画す作品である。少子高齢化や人口減少と共に迎えた多死社会によって、故人を送り出すこれまでの形式を考えざるを得なくなった。そんな社会背景に対して、ある種の皮肉を込めて問題提起しており、廃墟や縮小化の美学のようなものが感じられた。
一方で実家改修においては、両親の経験と未来の生活がこれから積み重ねられていくため、その過程は多様であり、希望の二枚の壁としての物語もあるのではないかと個人的には思えた。とはいえ過去の記憶を継承し建築へとネットワークされていく手法は評価できる意欲作の一つだと思う。
(青森地域会 福士 譲)

東北学院大学 工学部 環境建設工学科
竹添 佑紀
作品タイトル:緑坂ライブラリ

既存の大崎市図書館が街の中心にある図書館としては周囲に溶け込んでしまい分かりづらい外観をしていると感じ、街のシンボルとして相応しいファサードで、かつ内観の快適性を備えた図書館を提案。
洞窟から着想した図書館の内部は本棚で迷路の様な空間を演出し、さまざまな場を設け、外観・内観ともデザイン的に完成度の高い設計となっています。
屋根を芝で緑化し回遊できる外観は、ランドスケープを意識した様な周囲に馴染んだデザインになっており好感を持てますが、これも周囲に溶け込んでしまう外観になっているのではないかと危惧します。建物と周辺環境との関係性の分かる資料があれば、その違いや効果が伝わったと思います。また、この場所に「洞窟」を持ってきた必然性は感じず、今後は土地の文脈を読み解いた設計にも挑戦して欲しいと思います。
(福島地域会 齋藤史博)

山形大学 工学部 建築・デザイン学科
羽賀 仁紀
作品タイトル:ブザイ再考ー日常の多元的解釈による再構築ー

提案では、身の回りにあるモノを部材化して(1)部材の分析、(2)モノの読み替え、(3)空間の考察、と展開しています。流通品(モノ)を置換してブザイ(建築部材)に転用するという悩ましい作業は現実の実務でも直面することがあります。ある著名建築家の作品の空調吹き出し口は、ホームセンターで入手したポリバケツの底をカットして利用しています。小さな例を上げれば私の子供の頃はリンゴ箱が勉強机でした。リンゴ箱は有能ブザイの一つで間仕切りにもなり収納棚、展示棚にもなり生活空間や展示空間に活用できます。焼き物の大皿は底に穴を開けられ、洗面器に再利用され今では汎用的な建築部材となってきました。提案のブザイが快適な生活空間、建築空間に活かせるかどうかが、問われました。
(岩手地域会 六本木 久志)