JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA東北学生卒業設計コンクール2024審査結果と応募作品講評

2024年2月20日(火)に行われたJIA東北学生卒業設計コンクール2024の審査結果と講評文を掲載いたします。

日 時:2024年2月20日(火)13:00~17:30
会 場: (応募者・審査員)Zoom (事務局)日本建築家協会東北支部事務局
出席審査員:
進藤勝人(東北支部長)、福士譲(青森地域会)、西方里見(秋田地域会)、六本木久志(岩手地域会)、氏家清一(宮城地域会)、本木大介(山形地域会)、齋藤史博(福島地域会)
事務局:櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)

応募登録11作品
審査方法:ZOOMにて各作品プレゼンテーション 
発表時間8分 + 質疑応答7分 計15分
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最優秀賞
日本大学 工学部 建築学科
田端 萌美
「眠る資産、再び芽吹く-辺縁を使い切る-」

本作品は宇都宮市大谷町の再興で、観光地となった採掘場跡の周辺地域の衰退を危惧し、その周辺に大谷石を活かす5つの施設を点在させる計画です。そのメインの半地下農業施設は採石跡地の雨水貯留水の冷熱を利用し夏イチゴを栽培・販売等をします。貯留水の活用や砕いた大谷石の気化熱を利用するなど、地域の資源を農業に活かす計画が面白く、外観や内部空間も魅力的に出来ています。建物の外壁等にも大谷石をその特性を考慮しながらバランスよく使用すると更に建物の説得力が増したと思います。他の4施設もよく考えられており、各施設を繋ぐテゥクテゥク乗車場を計画していますが、点が線に昇華していくストーリーやテゥクテゥクが繋ぐ街並みの表現を見てみたかったです。廃れゆく資源を利活用し半地下農法という新しい産業をはめ込み地域の修景をしていくという優れた設計で、実際に見てみたいと思わせる作品です。
(福島地域会 齋藤史博)

優秀賞
山形大学 工学部 建築・デザイン学科
本橋 のどか
「竹を纏う」

現在はスーパーに交流がなく、空間に原因があるという仮説から展開されています。たまにスーパーに行く自分からすると、果たしてそうだろうか?と思いつつ拝聴していました。そこはさておき、週末など時間があるときに出かけるスーパーとして捉えると、竹を活用して伸びやかな空間になっていて、ものとしての完成度は評価したいと思います。
偶発的にスーパーで生まれる交流は日常に彩りを与えてくれると思います。そこに着目した点は素敵だと思いますが、交流がなくなっているという論理展開はいささか乱暴なのではないでしょうか。ものとしての完成度が高いだけに、スーパーでわずかかもしれないけど残っている交流をデリケートに汲み取るところからはじめれば、豊かな日常の風景を想起させる、一段上の案になったのではないかと思います。
(山形地域会 本木大介)

優秀賞
仙台高等専門学校 総合工学科 建築デザインコース
工藤 碧乃
「まちのスキマにシカケる」

山形市十日町に存在する蔵に着目し、町の構造と蔵の分類やそれぞれの蔵の特徴を調査の上で、路地や空地の活用を提案しています。①町屋と蔵の再構築、②雪囲いで繋がる蔵、③土塁跡と繋がるランドスケープと蔵、④蔵の増殖、⑤蔵と多層の塀の組み合わせ、⑥蔵を丸ごと覆う記憶の貯蔵空間、⑦農地利用の仕掛けと蔵、⑧蔵の軒下と町並みを繋ぐ仕掛け、の八つの提案です。コンセプトとイメージはとてもわかり易く好感を持ちました。このイメージを具体的な計画案として成り立たせる必要があります。提案それぞれの対象の蔵とスケールを持った仕掛け、利用者との空間構成のわかる計画案。8箇所全ての模型が欲しいと思いました。
(岩手地域会 六本木久志)

以下、発表作品・講評
東北工業大学ライフデザイン学部生活デザイン学科
晴山 響喜
「オーバーレイする街角  ‐岩手県野田村地区における居場所の創出‐」

この提案は、東日本大震災で津波の被害を受けた、祖父の居住する岩手県野田村において、今後、地区の存続と持続的にそのコミュニティを形成していくために「ガソリンスタンド」に居場所としての可能性を見いだし、多くの住民が知恵や文化を発信し、かつ、住民の多くの生活要素がオーバーレイする施設の設計である。現地調査を行い、住民等のヒヤリングをもとに、「ガソリンスタンド」と道路を挟んだ2つの敷地の空き家を増改築し、日常生活の空間とジョブ空間を構築し、相互交流する街角を演出する内容である。実直に敷地を読み解き、自身の考えを具現化した素直な設計であり、立体的な表現等、好感の持てる作品となっている。
(宮城地域会 氏家清一)

東北芸術工科大学 デザイン工学部 建築・環境デザイン学科
覚張 日梨
「形のないものを形作る」

眠っていたものを点在させることで、散策するという行為に歴史の奥行きをあたえてくれる魅力的な案だと思いました。観光地のように直接的でわかりやすいアピールはせずに、断片を散りばめて気づかせる程度にとどめて、来訪者自らに組み立ててもらいたいという意図を感じ、それがデザインできている点も評価しました。蔵王の険しい地形を簡素な構造物で散策路にしている点も、鉱山の先の過去、人間と自然営みを想像させてくれます。来訪者が自ら気づいて能動的に過去への想像を膨らませることは、おのれの足場をしっかりと確認し、確かな未来への想像につながるきっかけを与えてくれるような気がします。今の時代の建築の可能性を感じ、高く評価いたしました。
(山形地域会 本木大介)

宮城学院女子大学 生活科学部 生活文化デザイン学科
三井 旭葉
「新しい高齢者介護施設-文化と創造の共有-」

本作品は仙台市泉区長命ケ丘の空き地に文化と創造を共有する高齢者介護施設の設計です。中庭を中心に高齢者介護施設と保育園を配置し、それを囲むように外側に図書館等があります。函館の五稜郭の様な特徴的な配置計画で、各室の採光や導線計画をしていくうちに辿り着いた形だと思われるが、本人からこの形に至った積極的な回答を得たかったです。高齢者介護施設にはグループホーム・特老・デイサービスがあり、状態やメニューに応じて多様な老人の受け入れや、保育園の併設や図書館との融合で多世代の多くの住民を許容できそうなところに好感を持ちました。また、細部までプランニングが出来ており非常に意欲を感じます。中庭+施設+図書館の組合せの設計はこれまでやり尽くされた感があるので、図書館以外の機能の充実や、コミュニケーションを促すメニューのデザインを表現するともっと高い評価を得られたと思います。
(福島地域会 齋藤史博)

東北学院大学・工学部・環境建設工学科
星 幸太郎
「対 庵」

二畳並列と二畳縦列の2つのパターン茶室をパネル工法を用いて容易に作り上げることができる建築の提案です。
大きな模型をつくり、実際に2つの茶室に変形させる、発想と実演は、模型作成の努力と工夫が見え、興味深い作品であったと思います。
しかし、茶室は日本建築の中で有数の「日本的な建築」であり、茶室の構造、茶道を十分に理解しなければ設計が難しい建築とされています。
これを機会に、茶室研究をしていただき、お茶を飲むという、日本的感性を理解し、芸術的な茶室の空間を作ることを期待しています。
(東北支部長 進藤勝人)

東北大学 工学部 建築・社会環境工学科
山田 竜誠
「カタツムリの蠱毒」

滞在性や交流性による(皆)の明るい社会の可能性を探る近年の傾向とは一線を画すオリジナルティある意欲作。集住コミュニティの崩壊によってもたらされた過剰な情報から避難する為には、多くの人との共存が必要と私自身は思っていた。しかし本作では、むしろ個人の生活を重視した小さな社会における他者との共存、微かな交流性に自己肯定感を求めており、(皆)という不確実な存在を皮肉った社会批評と捉えることもできる。そんな微かな交流性を空間化している点が評価できると同時に、このような小さな社会の価値観を社会的に包摂できることが求められる多様性なのかもしれないと考えると、リハビリではなく小さな挑戦とも思えてくる不思議な作品である。
(青森地域会 福士譲)

宮城大学 事業構想学群 価値創造デザイン学類
及川和怜
「つなぐみち -宮城県石巻市における地域の記憶継承のための空間の提案-」

東日本大震災の被災地において、日常生活と災害文化が不可分の関係で共存する街を目指した意欲的な提案である。現在の他施設の展示状況や対象地の状況など丁寧に調査した結果をもとに設計された道や建物の配置は、故郷を愛する気持ちが全面に伝わってくるストーリーとなっている。一方で紙面上のプレゼンや配置されたスタジオ等の建物群のデザインについては、もう一歩踏み込んだ表現が欲しいと個人的には感じられた。様々な人のアクティビティを考えると、規模や空間性等もう少し多様になったのではないかと思われるためだ。しかしながら本課題で考えたことが今後の故郷との向き合い方のベースになり活躍されることを期待している。
(青森地域会 福士譲)

秋田県立大学 システム科学技術学部 建築環境システム学科
田口 径
「たまり、あきなう -秋田県能代市の防火帯建築を対象とした街に居ることをふまえた商店街再生-」

今日的・全国的な街づくりの課題の「地域の寂れた中心街区に賑わいを取り戻す」をコンパクトに考えた意欲的な提案である。戦後の2度の大火に見舞われた中心市街地の当時の再興は幅広い防火道路を中心に両側に2〜3階建の防火帯建築が並んでいた。日本の経済が元気な頃は賑わいがあったが現在は人通りの少ないシャター通りの灰色の街区になっている。街区の賑わいは人々が集まる魅力をもつことである。それには魅力ある買い物、飲食、広場・広間が欲しい。本提案の評価できるのは以下の内容である。全建築を立て替えるのではなく、解体された部分の隙間を活かし、冬の寒冷・積雪・強風を解決できる、設計手法の1:屋根付き通路、2:たまりの空間の設置、3:活動をまちに広げる提案である。
(秋田地域会 西方里見)

東北工業大学 建築学部 建築学科
永窪 輝斗
「活きあがき 〜県民会館は生きたい〜」

移転新築が決定している宮城県民会館のホールを中心に、その周囲をリノベーションして、保存活用しようという提案である。建物内ホールを残し、周囲部分の壁面も含めた緑化や開放された子供向けステージの設置、定禅寺通りも含めた再整備の計画であり、多くに人々に定禅寺通りを含めて活用してもらいたいという意欲的な考えは伝わってきている。一方でその改修に緑化や子供のための場の設定、
機能転化は評価できるが、提案内容検討の丁寧さと工夫、緑を扱う場合の建物への影響、定禅寺通りや周辺建物など町並みとしての考慮がもう少し欲しかった。図面・模型表現も含めた提案への取り組み、リノベーションの可能性を目指した姿勢は評価できる。
(宮城地域会 氏家清一)