JIA 公益社団法人 日本建築家協会東北支部 The Japan Institute of Architects Tohoku Chapter

「東北支部」ニュース

JIA東北学生卒業設計コンクール2025審査結果と応募作品講評

2025年2月28日(金)に行われたJIA東北学生卒業設計コンクール2025の審査結果と講評文を掲載いたします。

日 時:2025年2月28日(金)13:00~17:30
会 場: (応募者・審査員)Zoom (事務局)日本建築家協会東北支部事務局
出席審査員:
蟻塚学(青森地域会)、西方里見(秋田地域会)、佐々木則章(岩手地域会)、齋藤和哉(宮城地域会)、渋谷達郎(山形地域会)、齋藤史博(福島地域会)
審査総評:早坂陽(東北支部長)
事務局:櫻井一弥(事業委員長)、佐藤充(卒コン担当)、
 撮影:星野明(宮城地域会)

応募登録10作品
審査方法:ZOOMにて各作品プレゼンテーション 
発表時間8分 + 質疑応答7分 計15分
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最優秀賞
山形大学 工学部 建築・デザイン学科
西村亜弥乃
「裏庭で暮らせば」

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本設計は青森県黒石市の中町伝統的建造物群保存地区内の裏庭(かくじ)の再興です。
表通りは街並み保存がされ観光地化されたが、本来の機能が失われたことで住民同士の交流の場であった裏庭の機能も失われている。
そこで裏を活性化させることにより表への相乗効果を期待し、暮らしや生業の場として若者向けの公営住宅を計画している。
ランダムに配置された各住戸や不規則な片流れの屋根の建物群は抜けが多く軽やかで魅力的である。一方で表通りとは異質になりそうだが、こみせ(表通りの深い軒が設けられた通路)の建築的な要素を丁寧に抽出して建物群に再構成させ、繋がりを感じさせようと工夫をしているところに好感がもてる。欲を言えば物理的に表と裏を繋ぐ装置(裏通り等)を表現し、表裏一体の相乗効果の物語をデザインするとなお良かったと思う。
かくにも全国の伝建登録地区の課題解決の糸口となる魅力的な設計となっています。
齋藤史博(福島地域会)

優秀賞
東北芸術工科大学 デザイン工学部 建築・環境デザイン学科
渡邊咲来
「植物形態学的建築」

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植物の形態について詳細に調査分析し建築空間へ展開することで、人らしくない他律的な美しい空間を追求する計画。ジルクレマンの“動いている庭“が引用されるように、人の手・思考の跡をできる限り残したくないという意図がみえる一方、実際にできあがる空間は(単に植物を巨大化させるわけではなく)植物のルールをもって空間化されており、慎重さにも似たほどよい抑制が感じられる。
巷間、他律的な空間を用意し人がうまく使えない衝突や意外性を楽しむような計画が散見されるが、ここではひたすら植物の形態に従い機能性を超えた美しい空間を理想として提示しているところに作者の持つ芯の強さや大胆さもうかがえる。
つぶさに植物を見つめる視点からは儚くも物言わない植物への憧れが感じられるが、それ以上に、純粋に美しいものを創造したいという(一般的な建築設計や社会性には収まらない)強い実空間への執着が感じられる。
蟻塚学(青森地域会)

優秀賞
東北大学 工学部 建築・環境工学科
伊奈 朋弥
「たとえば、遠く歩く」

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本作品は、都市の変容を喪失ではなく新たな見え方の獲得として捉え、歩行という行為を通じて視点が変化することを設計に応用する試みである。仙台市とその近郊における歩行体験を記録したバインドブックをもとに、特定のビルの見え方が変化する地点を選定し、そのうち3カ所において、場所と応答しながらビルを再認識できる設計を行った。窓・カーブミラー・階段といった小さな要素を巧みに用いることで、建築の見え方が変化し、都市の風景がより豊かに感じられる点は高く評価できる。一方で、なぜその3地点が選ばれたのかという具体的な根拠が示されておらず、やや不完全燃焼の印象を受けた。綿密なリサーチを基に構築された計画であるからこそ、選定の論理を明確にし、最後まで一貫した姿勢を貫くことで、作者の描く世界観がより強く伝わる作品になったのではないだろうか。
齋藤和哉(宮城地域会)

以下出品作品

宮城学院女子大学 生活科学部 生活文化デザイン学科
畑岡 茜音
「つながりの階調  ―孤独死 を防 ぐ公営住宅 の提案―」

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震災後一定期間を経過した社会問題として公営住宅の孤独死を挙げ、「ダンバー・グラフ」を参考にコミュニティの配置計画や生活空間の質を提案する作品。コミュニティを円滑に運営する上で150人という数値に着目し、既存住棟の改修によって共用部を挿入しながら入居人数を整えている。平面計画は玄関を向かい合わせに配置し庭・ベランダをL字に配置するなど住人同士が適度に見守り合える空間を生み出し、孤独死を防ぐコミュニティづくりを意図している。
コミュニティが包含する人数以外にも、より空間にせまる計画の工夫やコミュニティを維持するためのソフト計画など追求するポイントは多数あるように感じられ、全体として淡白な計画に映ってしまったのがもったいなかった。社会性を帯びた課題に正面から取り組んでおりコミュニティに寄り添う優しさをもった良い計画であるので、今後の活動により良い形で発展させてほしい。
蟻塚学(青森地域会)

仙台高等専門学校 総合工学科 建築デザインコース
早坂 凛
「個が暮らす団地 ―残すモノ変わるコト―」

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時代背景を踏まえ古い団地を全部解体し造り変えるのではなく改修する事が増えている。
その意味論や方法論が求められ、そして計画と設計まで進みたい。
社会に求められていテーマである。その良いテーマをもったが、賞にもれたのは残念だ。
建物は老朽化し住民は高齢化し団地はサビレ、もの悲しい。これをどう解決するか。団地は我々の社会資本である。大切にしたい。
コミュニティが大切にされ豊かな生活がある団地を設計者は提案する。手立ては、残すモノと変わるコトを提案する。残すモノはコミュニティの場になる階段とベランダ。階段は高齢者の運動場、ベランダは植物がある縁側。変わるコトは現代の暮らしに合わせる。家族単位だけではなく、個人、一人の多様性をもつ団地。高齢者の同世代ばかりでなく、若い世代と混在になり賑やかなになる。楽しいのは小さな子供がいる世帯だろう。コストダウンな団地再利用だから家賃も安く若い世代が入りやすい。
これらの価値ある基本概念をもとにし計画、設計へとすすめている。賞を逃したのは、おしむらく表現が地味であったからだろう。
西方里見(秋田地域会)

宮城大学 事業構想学群 価値創造デザイン学類 生活環境デザインコース
渡辺 崚太
「身土不二―土ぐらしで取り戻す、人と土壌の記憶―」 

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震災の津波塩害により何にも利用されることなく放置された元稲作地に土をテーマとした新たな施設を造ることによって島民の抱える問題を解決し、更に外部から人を呼び込み、島の活性化を図りたいという意欲的な作品です。パースの作り込みもよく出来ていますし、模型も素材感を大事にした作り方で雰囲気が伝わりました。展示、堆肥製造、アロットメント、宿泊、学習・図書の施設機能についてプレゼンボードに、より詳しい説明が加えられると更に人々に伝わる作品になると思います。土と人の関係性や土を利用した版築など作者の土に対する考え方は非常によく伝わりましたが、この建築がこの場所に必要な意義や島民の土に対する思い、土との関係性について計画の前段階における調査や検討をもう少し深めると説得力が増す作品になると思います。全体的な完成度は高い作品です。自信を持って今後も続けていただきたいです。
佐々木則章(岩手地域会)

日本大学 工学部 建築学科
小日向 環
「カタルシス峡谷 -『デミアン』から紐解く私的空間の解放-」

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本作品は、ヘルマン・ヘッセの『デミアン』の思想を基に、理想と現実が交差する中で生まれる「美」を建築的に表現することを目指している。作者自身の内的世界を敷地とし、縦方向に積層する並行二重螺旋の構造を採用することで、理想と現実が絡み合う多様な空間性を生み出している点が特徴的である。内面を起点としながらも、他者の介在を許容する開かれた建築になっているのが興味深い。
しかし内的世界の表現にとどまると、他者との共感や社会とのつながりが希薄になりかねない。そこで作者にはこの作品から得た空間性をもとに、実社会に存在する建築を設計することを期待したい。個人の内面と対話しながらも他者とつながる場に応用することで、本作品の思想がより普遍的な価値を持つものへと発展するだろう。それこそが理想と現実の交差から生まれる「美」を建築として具現化することにつながるのではないだろうか。
齋藤和哉(宮城地域会)

東北学院大学 工学部 環境建設工学科
町屋 佑夏
「よこまち -文と創造の杜-」

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仙台市中心部のアーケード街の一角に提案された文化複合施設の提案である。当該エリアは仙台市の中でも表通りとは一線を画した雰囲気の場所で、路地が網の目状に展開し、ヒューマンスケールな空間と相まって都市の猥雑性が魅力となっている。作者は丁寧なリサーチを重ね、このエリアに手芸店やクラフトショップ、ギャラリーなどが集積していることを発見し、「手仕事」がこのエリアの個性であり、エリア全体を盛り上げる糸口としてものづくりを主体とした交流スポットを提案するに至った。この一連のリサーチと提案に至るプロセスは高く評価できる。一方、提案されたホールや図書館は、巨大な箱物に過ぎず、この場所のもつヒューマンな魅力をスポイルするに十分な破壊力があったのが残念でならない。建築は周辺環境や社会との関係性が不可欠である。たとえば、必ずしも大きなものを作らずとも、座り心地のよいベンチをそっと置くだけでも良かったかもしれない。
渋谷達郎(山形地域会)

東北工業大学 建築学部 建築学科
伊藤 涼音
「港 SCAPE」

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工業港というネガを積極的に活かそうとする港湾再生の提案である。仙台港に点在するコンテナや倉庫、鉄塔やクレーンといった風景の要素を綿密にリサーチし、独自の解釈で動的なものと静的なものに分類した点に独自性があり、美しいビジュアル表現と相まって、高く評価された。一方で、こうした風景を形作る要素を直接的に提案のマテリアルとして採用している点において、提案が表層的なものに留まってしまった懸念がある。提案内容として、フェリーターミナル、ホテル、交流施設が挙げられているが、図面情報が乏しく各用途がどのように配置され、動線がどのようになるのか、海との関係性はどうなるのか、具体の計画内容について判断ができなかった。こうしたグレーフィールドの開発は、たとえばIBAエムシャーパーク構想に代表されるように、都市全体でとらえた港湾地区の再生の提案であれば、よりリアリティをもって共感できたかもしれない。
渋谷達郎(山形地域会)

東北工業大学 ライフデザイン学部 生活デザイン学科
武藏 澪佳
「鉈屋町を育てる」

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歴史的な街並みが残る場所に新たな建築を計画し魅力ある街を形成していこうという提案です。古い街並みは一つの建築をつくることによって変わるという簡単なものではなく、段階的に計画し街を育てていくことが必要だという提案は、現状の街並みについてよく理解しており非常に好感が持てる部分です。街に必要な新しい要素についてもよく調査した上で選定出来ていると思います。形態規制がある中での建築物の計画についても無理をしない現実的な計画が評価出来ます。水場へ導く通路として棟を分けた方法に関しては、盛岡町家の構成特徴や街並みの連続性を考慮した上で、同棟で検討してみたり、屋根を繋げてみる等の工夫が欲しいと感じました。コンセプト、調査、計画までの一連の工程、模型やプレゼンテーションボードの作成もよく出来ており期待感が持てる作品です。今後も同じような姿勢で建築と向き合っていただきたいと願います。
佐々木則章(岩手地域会)